2018年 ロンドンキャンパス Fashion Design Master’s programを卒業した中村淳さんにお話をうかがいました。
マランゴーニに入ることになった経緯を教えてください。
大学を卒業後、着物の会社に入社しました。3年くらい働き、着物の染めや刺繍をする作家さんと話をする機会が多く、伝統工芸に興味を持ちました。もともとファッションが好きでデザインをやってみたいと思っていたこともあり、本格的にファッションデザインを学ぼうと会社を辞めてモード学園に入学をしました。モード学園を卒業後に日本のファッション業界で6年働き、中国やインドに出張に行く機会があったんです。インド人とやりとりしたりしながら、海外もおもしろいなと思い始めました。それと同時に、日本のファッション業界は自分には合わないと感じたんです。そういうことがあって、海外に学ぼうと思い始めるようになりました。
その後マランゴーニのロンドンキャンパスのファッションデザインのマスターに入学をしました。
なぜマランゴーニにしたのでしょうか。
英語圏の学校を探していたので、もともとアメリカかイギリスで考えていたんです。
結局色々と検討した結果、イギリスのロンドンに決めました。マランゴーニってイタリアのファッション学校なので、ミラノキャンパスだとイタリア過ぎるというか(笑)、でもロンドンキャンパスってかなりインターナショナルの雰囲気で、マランゴーニらしいイタリアの伝統を重んじた授業と、インターナショナルなものが融合してマランゴーニのロンドンキャンパスがちょうど良いと感じました。アーティストも多く住んでいるという点もロンドンがいいかなと思いましたし。世界ファッション名門校トップ10の学校に絞って検討を進めた結果、最終的にマランゴーニが良いなと思って決めました。
ロンドンキャンパスはどうでしたか?
場所が最高に良いんですよ。日本で言う原宿のようなところにロンドンキャンパスがあるんです。Shoreditchというロンドンキャンパスがあるエリアは、色々な国籍のアーティストが住んでいて、かっこいいセレクトショップや壁などにアーティストが書いたアートが描かれていたりとかなりエリアも刺激的です。キャンパスはレンガ作りでかなりおしゃれですし、古き良きロンドンらしさも残しつつ、中はらせん階段があり、天井の作りもかなりスタイリッシュなデザインです。ファッションというひとくくりだけではなく、アートという美的感覚も取り揃えたかっこいいキャンパスです。
マランゴーニに通って良かったと感じたことは?
たくさんあるんですが、まずは先生が非常に良かったです。アトリエにマネージャーがいて、構成など細かい指導をしてくれる先生がいるんです。その先生がプラダやトムフォードの一線で働いていた方で、ラグジュアリーレベルの縫製の仕方や、ドレーピングの仕方を細かく教えてくれました。トップレベルの世界で実際に働いていた方なので、テクニックが全く違いました。美しく縫製できるテクニックを初めて知ることができました。そのお陰で、何でも縫製ができるようになりました。ちゃんとしたブランドやラグジュアリーの縫製とそうではないものの見分けも簡単につくようになりましたね。
やはり日本で教わった縫製と違いましたか?
日本ではもちろんしっかり基礎も教えてもらいましたし、他の国に比べてかなり細かく教えてくれる方だとは思うんですけど、マランゴーニで教わったのは、さらにその上をいく細かな縫製技術でした。
他にお世話になった先生はいますか?
ハンドクラフトの研究をずっと続けているプログラムリーダーだったカースティン先生ですね。教えてもらったことすべてが新しかった。インスピレーションからデザインのデベロップメントまでの工程の中で、リサーチって非常に大事なんですよね。画像を集めて、デザインの方向性をいきなり決めて始めようとする人って多いんですけど、とにかく画像を集めて、書けって言われました。思いついたものをすべて書けと。書いていくうちに、また新しいものが浮かんでくる。どんどん繋がっていって、最終的に全く新しいものができあがっている。そういうやり方を教えてくれたんですよね。またハンドクラフトの知識がすごい先生だったので、細かい部分の指導や相談をしっかりしてもらうことができたのは大きかった。
デザインの先生では、サチエンクマール先生にもかなりお世話になりました。リサーチ方法についても色々なアイデアをくれたり、ここが抜けているからこうしたらいいとアドバイスをくれました。今の自分のブランドスタイルとなった“絞り”を取り入れる方法についてもたくさん相談にのってもらえた。とにかく先生たちが良かったです。
辛いと思ったことはありましたか?
先生が厳しいとか、授業が辛いとか感じたことは一切なかったですね。ドレーピングの先生もすごい先生で、布の持ち方や動かし方が洗練されていた先生がいました。厳しい先生ではありましたが、すごい先生でした。辛い思いは学校ではなかったですが、ロンドンの生活でいくつか辛い経験があったくらいですかね。
ロンドンの生活はどうですか?
天候があまり良くなかったり、美味しい店を見つけるのに苦労するくらいで、ロンドンでの生活はとても楽しいですね。ただ物価がとても高いです。ウクライナの戦争が始まってから家賃がかなり上がっています。シェアアパートで家賃12~13万円くらい。日本の倍くらいのイメージです。外食も高いですが、スーパーの食材はそんな高くないです。
現在はロンドンでご自身のブランド『JU-NNA』を立ち上げてデザイナーとして活躍されていますが、きっかけとなった出来事はありましたか?
大きなコンペティションの情報が学校には入ってくるんですけど、参加希望を出すと細かく講師たちがサポートしてくれました。入選したMITTELMODAというイタリアの有名なコンペティションは、ロンドンキャンパスとして初めての入選だったようで、とても喜んでくれました。6体くらいの絞りのデザインを作ったんですが、アトリエを独占して使わせてくれたり、色々なアドバイスもしれくれました。受賞こそ逃しましたが、入選したことによって雑誌に掲載されたりなど功績を残せたことで、その後ロンドンでビザも入手することができました。
ブランドはどのように立ち上げたのでしょうか?
卒業時にT1タレントビザという、アーティストや建築家など海外で認知されはじめた人がイギリスでの活動を目的としたビザを取得できました。その時に、ロンドンで何でもできるなと思い、インテュべータープログラムという起業するためのワークショップをマランゴーニ内でやっていて、参加しました。ブランドの立ち上げや起業について基礎的な部分を教えてくれたので大変助かりました。
留学をしてみたいと思っている学生に向けて伝えたいことはありますか?
デザイン面で言うと、日本は日本でいいところはありますが、ロンドンで言うとアートやデザイン自体の価値観が日本と全く違います。仕事としてアートやデザインが確立しているんですよね。すごく自由で世界が広がります。デザインのプロセスにしても、日本で学んだこと、考え方の角度が違うんです。新しい道が広げられる感覚があるというか。日本と異なる文化を持つ環境の中で勉強すると見え方も考え方、そして価値観も変わります。そういう部分がとっても大事な気がします。英語については、海外でそのまま働く以外に、日本に帰国してビジネスをするにしても、海外と繋がってグローバルな仕事はできますし、一生助けてくれるものなので、頑張ってもらいたいです。